過狩り狩り~鬼滅の刃研究2「ルーツ編」~

「鬼滅の刃」の原作者の吾峠呼世晴とはどんな人物なのだろうか。
名前の読み方は「ごとうげ・こよはる」である。
吾峠はこの「鬼滅の刃」が初めての連載作品である。
そのため、その個人については永らく謎であった。



吾峠は福岡県出身。
1989年5月5日生まれで現在32歳の女性である。
眼鏡をかけたワニの自画像を用いていることから、「ワニ先生」とも呼ばれている。


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本名は不明であるが、一説には名字が「峠」あるいは「後藤」ではないかと囁かれている。



「鬼滅の刃」には鬼殺隊の「隠し」の後藤という人物が登場するが、「本名の後藤を隠す」という意味ではないかとも言われる。


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一方の名前であるが、「呼世晴(こよはる)」というのが「晴子よ(はるこよ)」のアナグラムではないのか。
そうなると「峠晴子」あるいは「後藤晴子」というのがフルネームなのだろうか。


吾峠は2013年、24歳の時に、短編マンガ「過狩り狩り」をJUMPトレジャー新人漫画賞に投稿。
佳作に選ばれている。
2014年「文殊史郎兄弟」が「少年ジャンプNEXT!!」に掲載され、デビューを飾った。
その後、「週刊少年ジャンプ」に「肋骨さん」(2014年)と「蝿庭のジグザグ」(2015年)を発表している。

上記の作品はいずれも「吾峠呼世晴短編集」に収められているが、
中でも「過狩り狩り」は「鬼滅の刃」のルーツを探る上でも興味深い作品となっている。


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明治大正の頃を舞台に、人の血を吸う鬼を、鬼狩りが倒すという物語。
「鬼滅の刃」でも重要な役回りを演じる珠世と愈史郎がほぼ同様の人物として登場している。
洋装の鬼・時川は「鬼滅の刃」の敵・鬼舞辻無惨の原型であるように思われるし、主人公の鬼狩り・ナガレも柱の冨岡義勇をどことなく思わせる。
ナガレが山の中で修行する様子や、鬼のいる山で鬼狩りになるための最終選別を受けるという設定はそのまま「鬼滅の刃」に受け継がれている。


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吾峠はその後、連載を目指してネーム(下書き前の設計図)の制作を開始(参照)。
2015年中に連載を獲れなければ辞めるつもりでいたというが、なかなか採用には至らなかった。
「過狩り狩り」を元とした「鬼殺の流」のネームも当初不採用となるが、これが「鬼滅の刃」の原型となった。
「鬼滅の刃」公式ファンブック「鬼殺隊見聞録」に「鬼殺の流」のネームがそのまま掲載されているが、「過狩り狩り」同様、鬼狩りのナガレ(流)が主人公となっている。
鬼狩り組織・鬼殺隊が登場し、鬼退治の刀・日輪刀や、藤襲山での最終選別など、「鬼滅の刃」にそのまま受け継がれた設定も多い。
第3話は、「鬼滅の刃」における沼鬼のエピソード(2巻10話)ほぼそのものである。

しかしながら、主人公の寡黙さや世界観のシビアさが連載には不向きとであるとされたという。
そこで当時の担当者は吾峠に主人公を変えることを提案した。
「明るくて普通のキャラクター」が作品世界の中にいないかどうか尋ねたところ、
吾峠は家族を殺され、鬼なった妹を人間に戻すために鬼殺隊に入る少年について説明した。
担当者は「何そのザ・主人公!」と思い、その少年を主人公として物語を考えるよう提案した。
この少年がそのまま「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎となったのである。


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タイトルが「鬼滅の刃」に変更されたのは、
流が主人公でなくなったため包括的なタイトルにしようとしたからだという。
作品に欠かせない「鬼」と「刀(刃)」を入れたタイトルとして「鬼殺の刃」となったが、
刺激の強い「殺」より広く使いやすい「滅」に変えられた。

コミックス1巻の「大正コソコソ噂話」によると、「鬼滅の刃」のタイトル候補としては次の9つがあったそうだ。

 鬼滅奇譚
 鬼鬼滅滅
 悪鬼滅滅
 鬼殺の刃
 滅々奇譚
 鬼殺譚
 空想鬼滅奇譚
 鬼狩りカグツチ
 隅のカグツチ

タイトルに登場する「カグツチ(迦具土)」とは「古事記」に登場する火の神である。
カグツチは「竈三柱神」の1人にも数えられる「かまど神」だが、主人公・竈門炭治郎の名字とも重なる。
その炭治郎は「ヒノカミ神楽(日の呼吸)」を操るが、「ヒノカミ」とは「火の神」のことと考えられる。
「古事記」においてカグツチは、生まれた際に母イザナギの陰部を焼いて殺してしまい、
怒った父イザミギによって切り殺されてしまう。
その死体からは多くの神々が生まれたが、「日の呼吸」から多くの呼吸が生み出されたこととも共通する。
日本神話というのが「鬼滅の刃」のルーツにあるのだろう。
吾峠の故郷・福岡には竈門神社があり、今では「鬼滅の刃」の聖地ともなっている。


吾峠は影響を受けた作品を聞かれて、「ジョジョの奇妙な冒険」、「ナルトーNARUTO-」、「BLEACH」の3作品をあげたという(参照)。
例えば、剣を使っての攻撃や、鬼狩り組織の鬼殺隊の階級制度が「BLEACH」に、
鬼殺隊や鬼がお互いに技を使って戦う点や痣(「ナルト」では呪印)の出現が「ナルト」に、
特殊な呼吸法を使って太陽に弱い敵を倒すという点が「ジョジョ」に似ているというのだ。
他にも人を喰う敵が登場する点から「進撃の巨人」の影響を指摘する人もいる。
もちろんこれらの作品が「鬼滅の刃」に与えた影響は否定できないだろう。
だからといって「鬼滅の刃」の価値がなくなるとは僕はまったく思わない。
先行作品の要素を換骨奪胎し、独自の世界観にまとめ上げたのは紛れもなく吾峠の功績である。